2021年4月のツーソンジェムショーを振り返る

コロナの影響が続くなか開催された2021年4月のツーソンジェムショーについて、現地の様子や価格、品揃え、見かけた石、主観などをまとめました。

2021年4月のツーソンジェムショーを振り返る

2021年4月のツーソンジェムショーの雰囲気

2021年のツーソンジェムショーは、本来であれば1月から2月にかけて開催されるはずでしたが、コロナの影響で4月に延期されました。

満を持して開催された4月のツーソンジェムショーはどんな雰囲気だったのか見てみましょう。

2021年4月のツーソンジェムショーを振り返る

とにかくベンダーが少ない

とにかくベンダーが少なかった。

22ndHolidomeといった大きな会場にはそれなりのベンダー数が出展していましたが、PuebloTCCなどは例年と比べると50%以上減といった印象です。

ヨーロッパ系、アフリカ系、アジア系のベンダーは全滅でした。これらの地域から参加しているベンダーもいましたが、その人たちはグリーンカード保有者であったり、アメリカ国内でビジネスをしている人なので厳密には「国内組」ということになる。

例年であれば「この店が高いなら、あの店で買おう」という判断ができるけど、今回のショーではそれができなかった。

買い占めがすごい

今回のショーで何度となく遭遇したのが「買い占め」です。

買い占めとは、ひとりのお客さんが一気に買うことですね。たいていは小売店の社長さんがそういう買い方をします。

あるお店では、商品棚に出したばかりの数百キロ分の水晶をすべて買われてしまっていた。店員さんは「頑張って並べたのに全部梱包仕直しだ」と泣き笑い状態でした。

別のお店では、届いたばかりのパイライトを中身を確認することなく、値段だけ聞いて全部買っていった人もいた。その間、わずか1分以内。1パレット(1トン)くらいなので、金額にすると$10,000分はあるのではないでしょうかね。

品質が良くない

今回のショーは例年と比べて品質が悪い物が目立った。

その理由として、品質が良いものはアッという間に売り切れてしまったこと、ショーの期間中に商品の補充ができなかったこと(物流の問題)、コロナの影響で鉱山や工場が正常に稼働していないことなど様々だ。

商品を選ぶ側としては「この店は品質が悪いから、別のお店にしよう」と思っても、その「別のお店」が出展していなかったり、そちらも品質が悪いので困った問題だった。

挙げ句の果てに、品質が悪くても需要が高いため「価格が吊りあがる」事態になってしまった。

実際に、ツーソン在住のアメリカ人バイヤーも「今年は品質が悪いのに高い」と嘆いていました。

物がない

今回のショーで本当に困ったのが「物がない」ことです。

とにかく物がなくて思うように買い付けが進まなかった人が多かったようです。事実、複数のアメリカ人バイヤーから毎日のように「あれはどこにあるの?」という質問がきて大変だった。

とくにウルグアイ産のアメシスト、ブラジル産のシトリン、高品質の水晶、セレナイトのカービングなど、例年であればいくらでも手に入るはずの物がなかった。

この背景には、ベンダーがいないこと以外にも、コンテナがショーに間に合わなかったことも影響しています。モロッコの人たちが120本のコンテナが未到着だと言っていました。

皮肉なことに、ショーが終わった次の週に到着予定だそう。

高い

今回のショーは全体的に高かった。

ある程度まとめて買っても値引きがないことは当たり前で、昨年よりも値上がりしている物が多かった。

例えば、アーカンソー州産の水晶は、2021年の1月よりも値上がりしていて、1キロあたり$20くらいも高かった。

「なぜこんなに高いのか?」と聞くと、どのお店も決まり文句のように「コロナの影響だ」と言う。コロナのせいで、採掘や加工が進まないため、残り物を売るしかないのだそう。

おまけに、アリゾナ州の最低賃金が上昇していることや、ブース代、宿泊代、ガソリン代など、ベンダーにとって経費となるものすべてが値上がりしていることも影響している。

他にも、渡航時に義務付けられているコロナ陰性証明の発行はひとりあたり$300-$500くらいかかる(らしい)ので、お店側としては負担が大きい。(帰国時にも負担しなければいけない)

自主隔離を2週間する場合、2週間分の滞在費と食費も負担しなければいけない。同伴する家族やスタッフの分もだ。

あるお店の人は昨年の倍で売っていると白状しました。

一度上がってしまった価格が来年以降に下がるかどうかは不透明だ。

暑い

4月のツーソンジェムショーは暑くて大変だ。

例年なら1月、2月なので穏やかな気候のもとで開催されますが、4月のツーソンは猛烈に暑い。地元の人も暑さで苦しむのに、遠方から来る人はもっと大変だったと思う。

車から降りて炎天下を歩いて、また車に戻る。すると車の中はオーブン状態になっていて、そんな中移動して、再び車を降りて炎天下を歩く。これの繰り返しだ。

朝、カチンコチンの凍らせたペットボトルの水がお昼にはお湯になるくらい暑かった。強烈な日差しは女性には辛かっただろう。

ツーソンジェムショーは1月、2月に開催するに限ると実感しました。

売り上げは好調

ほとんどのお店は売り上げは良かったみたいだ。

この背景には、アメリカではショーの前(3月)に現金$1,400の給付金が支給されたことがある。その前(12月)には$1,000支給されているので、消費者には余裕があったのだろうか。

一方で、日本人に人気のお店はあまり良くなかったようだ。「日本人が来ないから売れないよ」と言う人もいた。

来年以降は正常に戻るといいですね。

地元の人で溢れたショーだった

今回のショーは渡航制限などが影響してか、海外から来る人が少なかった。

日本人バイヤーを見かけたのはごく少数で、大変な思いをして来ていたようだった。対照的に多かったのはアメリカ人で、インスタグラムで有名な人などを見かけた。

アメリカでは、インスタやTikTokなどを通じて石を販売している人が多く、そういう人たちがこぞってツーソンにやって来たみたいだ。来年以降、こういう人たちと競争になるかもしれない。

アメリカ国内在住の日本人ともお会いした。母娘でロスから来たという親子は「予想以上にお店が少ないので予定を早めて帰るかも」と言っていた。

今回のショーは「国内ショー」と言ってもいい感じだった。

コロナの影響は?

コロナの影響が続く中で開催された2021年4月のツーソンジェムショーですが、実際はどんな感じだったのでしょうか?

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マスク着用

どの会場も「マスク着用」は必須でした。

しかし、マスク着用者5割、未着用者5割といった感じでした。面白いのは店員さんのほとんどがマスクをしていなかったことです。

気温35度近い灼熱地獄のなか(例年とはまったく違う)で、毎日重たい物を運んだり、立ちっぱなしの状態が続く店員さんがマスクをしていると、コロナではなく酸素不足で死んでしまう。

室内会場である22nd Street Showはマスク着用が義務でしたが、店員さんのほとんどはマスクをしていなかった。

ワクチン接種

今回のショーではワクチン接種の有無が問われることはなかった。

店員さんとの会話では必ずといっていいほど「ワクチンを打ったか?」や「おまえの国はワクチン必須か?」という話題になった。

ワクチン接種済みを誇らしげに語る人もいれば、ワクチンに否定的な考えを持つ人、悩んでいる人など様々だ。

来年以降、ワクチン接種済み者でなければ出展または買い物できないなんてことにならなければいいのだけど。

規制はあるけど緩め

今回のショーでは当局によるコロナ感染防止策が設定されていた。

マスク着用、ソーシャルディスタンス、入場制限など、慣れたものばかりだったけど、別段厳しいと感じることはなかった。

お店に入る時にうっかりマスクを忘れても指摘されることはなかったし、怒る人や過度に反応する人もいなかった。

マスク着用に厳しいお店ほどお客さんが入っていなかったのが印象的だった。

物流に影響している

コロナは物流に大きな影響を与えたようだった。

色々なお店の人に聞くと、コロナのせいで物流が円滑にいかないらしい。ヨーロッパやアフリカ方面から来るコンテナは、ロックダウンによって通関が進まず、いたるところで止まってしまうそう。

仮に、出発地から出航できても寄港地がロックダウンだとそこで足止めになるので、全然進まないらしい。

なかには、テキサス州のヒューストンで止まってしまい、もどかしい思いをしているベンダーもいた。

今回のショーで「物がない」や「高い」という結果を生み出している遠因はやはりコロナだったのだ。

どんな石があったのか?

2021年4月のショーではどんな石があったのか、気になった物をいくつかご紹介します。

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セレナイト

もともとセレナイトはツーソンジェムショーでは珍しい物ではありませんが、今年は色々な加工品が充実していました。

コンテナが届かないから「300個(3箱)しかない」とか「ショーが始まる前に売り切れた」という声をよく聞きました。

サフォーダイト

今回のショーではモルダバイトがまったくなかった。その代りに流通していたのが「サフォーダイト(Saffordite)」です。

光を透過するのでモルダバイトに似ています。綺麗な物はラベンダー色に見えます。

「アリゾナテクタイト(Arizona Tektites)」や「チンタマーニ(Cintamani)」とも呼ばれていますが、ツーソンジェムショーでは共通して「サフォーダイト(Saffordite)」でした。

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ピンクアメシスト

どの国の人からも人気だったのがピンクアメシストです。

10箱以上買わないと値引きしてくれない強気な姿勢だ。例えば、$100以下の物を10箱買えば値引きしてくれるけど、$200の物を9箱買っても値引きしてくれない、なんとも納得いかないお店だ。

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デュモルチライトインクォーツ

もう綺麗な物はないらしいデュモルチライトインクォーツ。

インスタに写真をアップしたらたくさんの問い合わせをもらった。高いのでみなさん泣く泣く断念。

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カルセドニー&フローライトのジオード

アメリカ人やシンガポールから問い合わせがあったのがこれだ。

日本人が好きそうな感じだけど高いのが難点。

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ロシアのアンモナイト

今回のショーでやたらと見かけたのがアンモナイト。

ロシア産はすごく綺麗で、マダガスカル産は安い。ロシア人いわく、売り出し中だそうですよ。

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スギライト

びっくりするくらい高かったのがスギライトの原石です。

鉱山が閉鎖したのでもう採れないと説明されましたが、真相は不明。もし本当であれば来年以降価格が高騰するかもしれない。

ちなみに「鉱山の閉鎖」は最も頻繁に耳にする価格高騰の理由だ。

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ズニ族のフェティッシュ

個人的にいくつか買ってしまったのが、インディアン(ズニ族)のフェティッシュです。神聖な物で、日本で言うところのお守りでしょうかね。

ちなみに、画像の物は「ダンシング・ベアー」で、シロクマが踊っています。

ズニ族ではシロクマは特別なパワーを持っていると考えられていて、鹿の角で出来ています。意味は「ハピネス」ですって!

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個人的な主観

今回のショーは、コロナの影響下でツーソンジェムショーに参加する意味を再定義する機会になったと思います。

個人的には「ツーソンジェムショーの利点はもうない」と思っています。とくに仕入れ価格や諸経費を重視する人にとっては顕著です。

ましてや、個人でツーソンジェムショーに行くことは、これまで以上にハードルが高くなりました。

まず、コストを考えてみましょう。ツーソンジェムショーに来るだけで最低でもひとりあたり300,000円くらいかかります。

この経費を捻出してまで、日本市場や中国の広州と大差ない価格で石を仕入れる価値があるかを考えないといけないと思います。

コストだけではありません。今後は健康リスクも負うことになります。日米間でワクチン接種義務化が進むと、人によっては大きなリスクです。

金銭的な負担や健康のリスクを冒してまでツーソンジェムショーに行く意味があるかどうかを、それぞれの立場でよく考えないといけないと思います。

対照的に、金銭や健康リスクは問題でなく、ツーソンジェムショーに行ってみたい、ツーソンジェムショーを体験してみたいという人にとっては、これからも魅力的な存在であることには変わりないでしょう。

これまではツーソンジェムショーは安いし、珍しい物が手に入ることが利点でしたが、昨今の日本の卸業者さんの尽力や世界状況の変化もあって、これらの利点はほとんどありません。

今後、金銭的な負担が増えたうえに健康リスクも加わった状況と、あなたの目的が見合うかどうかを見極める必要があるでしょう。

まとめ

以上、2021年4月のツーソンジェムショーを振り返るでした。

今回のショーはコロナの影響で「異例」だったかもしれませんが、価格高騰や、ツーソンジェムショーの利点の減少は否めませんでした。

ショーの様子や主観が何かしらの形で役に立てば幸いです。